top of page

国内および国際における環境製品宣言(EPD)取得プロセス

  • 4 日前
  • 読了時間: 12分

製品環境情報の透明化とEPDの戦略的重要性

持続可能な社会への移行が加速する中で、企業が自社製品の環境影響を定量的かつ客観的に開示することの重要性は、かつてないほど高まっている。特に、国際標準化機構(ISO)が定義する「タイプIII環境宣言」である環境製品宣言(Environmental Product Declaration, EPD)は、その信頼性の高さから、グローバルな調達基準や規制対応における不可欠なツールとなっている 。EPDは、ISO 14025規格に基づき、製品のライフサイクル全体(資源採取から製造、流通、使用、廃棄・リサイクルに至るまで)の環境影響をライフサイクルアセスメント(LCA)の手法を用いて算定し、第三者による検証を経て公開されるものである 。

従来のタイプI環境ラベル(エコマーク等)が特定の基準を満たした製品に付与される「合格証」的な性質を持つのに対し、EPDは製品の環境負荷データを「成分表示」のように透明化することに主眼を置いている 。この透明性は、BtoB取引におけるサプライヤー選定や、公共調達(グリーン公共調達)、さらには建物の環境性能を評価するLEEDやBREEAMといった建築認証制度において、評価の基礎データとして活用される 。

日本国内の主要プログラムである「SuMPO EPD(旧エコリーフ)」と、世界的に広範なシェアを持つ「The International EPD System(IES)」を対象とし、それぞれの取得の流れ、費用構造、および最新の国際的な規制・デジタル化の動向について、専門的な知見から詳細な調査・比較分析を行う。


環境製品宣言(EPD)取得プロセス

 


日本国内におけるEPD制度:SuMPO EPDプログラムの変遷と構造

日本におけるEPDの歴史は、2002年に開始された「エコリーフ」プログラムに遡る。同プログラムは、一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)によって運営されており、世界でも有数の歴史を持つEPDプログラムとして知られている 。2024年4月、SuMPOはさらなる国際整合性の強化と利便性の向上を目指し、プログラム名を「SuMPO EPD」へと刷新した 。

 

運営組織とプログラムの基本原則

SuMPO EPDプログラムは、ISO 14025、ISO 14040/14044、および製品分野別の国際規格(ISO 21930等)に準拠して運用されている 。プログラムの透明性と客観性を担保するため、有識者によるアドバイザリーボードや技術委員会の支援を受けて運営されており、日本で唯一のEPDプログラムオペレーターとしての地位を確立している 。

このプログラムの最大の特徴は、日本国内の産業構造に適したインベントリデータベースである「IDEA(Inventory Database for Environmental Analysis)」を標準的に採用している点にある 。IDEAは日本の統計データに基づいた緻密な背景データを提供しており、日本国内で製造される製品のLCA算定において極めて高い精度を発揮する。

 

取得に向けた具体的ステップ

国内におけるEPD取得の流れは、大きく「PCRの決定・策定」、「LCA算定と算定ツールの活用」、「第三者検証」、「登録・公開」の4つのフェーズに分かれる 。

1. 製品カテゴリールール(PCR)の選定と策定

EPDの算定には、同一の製品カテゴリー内での比較可能性を確保するための共通ルールであるPCR(Product Category Rule)が必要不可欠である 。申請者はまず、SuMPOが公開しているPCRライブラリに該当するルールが存在するかを確認する 。

該当するPCRが存在しない場合、新たにPCRを策定する必要がある。このプロセスでは、申請者が「PCR制定提案書」を事務局に提出し、採用された場合にはPCRワーキンググループ(PCR-WG)を組織して原案を作成する 。作成された原案は、専門家によるレビューパネルでの承認を経て公開される 。このルール策定プロセスを自社で行うことは相応の工数を要するが、業界標準を主導できるという戦略的メリットも存在する。

2. LCA算定とデータ収集の実施

PCRが決定した後、該当するルールおよび一般プログラム指示書(GPI)に基づき、ライフサイクル全般にわたるデータを収集する 。収集すべきデータは、自社の製造拠点から得られる「一次データ」と、原材料の調達や電力など外部から供給される「二次データ(背景データ)」に大別される 。

SuMPOは、算定作業を効率化するために「MiLCA for EPD」などの算定ツールを提供しており、申請者は算定ツール使用申請を行うことでこれを利用できる 。収集されたデータは、これらのツールを用いて環境影響評価(地球温暖化、酸性化、資源消費など)の結果へと変換される。

3. 第三者検証の申請と実施

算定が完了し、検証書類一式(ラベル案および検証報告書)がまとめられた後、SuMPOに検証申請を行う 。検証は、SuMPOに登録された独立した検証員によって実施され、算定プロセスがPCRおよびISO規格に適合しているか、使用されたデータに妥当性があるかが厳格に審査される 。

検証の過程で指摘事項が生じた場合、申請者はデータの再確認や算定の修正を行い、すべての不適合が解消されるまで対応を継続する 。このフェーズが完了すると、検証員から検証結果通知が発行される 。

4. 登録および公開

検証に合格したEPDは、最終的な登録・公開申請を経て、SuMPOのEPD検索サイト(EPDライブラリ)に掲載される 。登録されたEPDには固有の登録番号が付与され、原則として5年間の有効期限が設定される 。

 

国際EPD制度:The International EPD System(IES)の世界的展開

世界的に最も広く認知されているプログラムの一つが、スウェーデンを拠点とするEPD International ABが運営する「The International EPD System(IES)」である 。25年以上の歴史を持ち、1万9,000件以上のEPDを公開しているこのプログラムは、欧州市場を中心としたグローバルな調達要件を満たすためのデファクトスタンダードとなっている 。

 

IESプログラムの構造とデジタル化への対応

IESは、グローバルな運用を前提としており、世界各国の地域パートナーと連携している 。IESの最大の特徴は、デジタルプラットフォーム「EPD Portal」を基軸とした高度な管理体制と、最新の欧州規格(EN 15804等)への迅速な対応にある 。

IESにおける取得プロセスも国内制度と同様に5つのステップ(PCR選択、LCA実施、EPD作成、検証、登録・公開)で構成されているが、各フェーズでデジタルツールが深く統合されている 。

 

国際EPDの取得フローと特徴的な要素

デジタルポータルの活用と登録番号の予約

IESでは、EPD開発の初期段階でEPD Portalにアカウントを登録し、組織を紐付ける必要がある 。開発を開始する際、ポータル上で固有の登録番号(EPD-IES-XXXXXXX)が事前に予約され、これが最終的な識別子となる 。この先行予約システムは、開発の進捗管理や外部関係者との情報共有を円滑にする仕組みである。

 

多様な報告フォーマット:StandardとCompiler

IESは、従来のPDF形式による「Standard EPD Format」に加え、建設製品向けに特化したデジタルソリューション「EPD Compiler Format」を提供している 。後者は、ポータルのインターフェースに直接データを入力することで、PDFファイルの管理を不要とし、機械読み取り可能なデータの生成を容易にするものである 。

 

グローバルな検証ネットワーク

IESの検証は、承認された「個人検証員(Individual Verifier)」または「認定認証機関(Accredited Certification Body)」によって実施される 。検証者は算定方法の妥当性だけでなく、EPDの表現が正確で誤解を招くものでないか(ISO 14020への適合)を確認する 。検証が完了すると、検証者はポータル上で承認を行い、その後事務局による最終確認を経て公開される 。

 

国内EPDと国際EPDの費用構造の比較分析

EPDの取得・維持には、プログラム運営者に支払う諸費用と、LCAの実施や検証に関連する費用が発生する。これらの費用は企業の規模や製品数によって大きく変動するため、戦略的な予算策定が求められる。

 

SuMPO EPD(国内)の料金体系

SuMPO EPDの料金体系は、2024年の刷新により、従来の「登録公開料」を中心とした構成から、企業の規模に応じた「プログラム加盟料」を軸とする形式へと移行した 。

項目

詳細

料金水準(税込/税抜)

プログラム加盟料(年額)

大企業(301人以上かつ資本金3億円超)

1,000,000円/年


中小企業(21人~300人等)

400,000円/年


小規模企業(20人以下)

200,000円/年

検証料(必須)

99フロー以下

240,000円/EPD


100~199フロー

270,000円/EPD


200フロー以上

300,000円/EPD

検証料(類似製品割引)

2件目以降の同時検証

1件目の半額

算定ツール貸与料

MiLCA for EPD

100,000円/12ヶ月

SuMPO EPDの料金体系において注目すべきは、検証料が「フロー数(算定項目の多さ)」に依存する点である 。これは、算定の複雑さが検証工数に直結することを反映している。また、既存の登録公開製品の売上高に基づく旧料金制度も一定期間(2026年3月末まで)選択可能となっており、移行期の激変緩和措置が講じられている 。

 

The International EPD System(国際)の料金体系

IESの料金は、初回登録時の「登録料」と、継続的な「年会費」で構成されている 。

項目

組織規模等

料金水準(EUR)

登録料(初回のみ)

1件目のEPD

1,000 EUR


2件目~4件目

500 EUR / EPD


5件目~99件目

100 EUR / EPD

年会費(継続)

多国籍企業(MNE, >250人)

2,575 EUR / 年


中小企業(SME, 11-250人)

1,030 EUR / 年


マイクロ企業(1-10人)

515 EUR / 年

API経由ツール登録

連携済ツールを使用

69 EUR / EPD

IESの料金構造は、大量のEPDを登録する企業に対して大幅な割引を提供するように設計されている。特に5件目以降の登録料が100ユーロにまで下がる点は、多品種展開を行うメーカーにとって非常に有利である 。また、API連携された算定ツール(EPD Generator等)を使用する場合、登録料が一律69ユーロとなる仕組みも、デジタル化による効率化を料金面で後押ししている 。

 

国際整合性と相互承認(MRA)の戦略的活用

グローバルに活動する日本企業にとって、国内のSuMPO EPDで取得したデータが海外でそのまま通用するかどうかは極めて重要な関心事である。この課題を解決するための仕組みが「相互承認(Mutual Recognition Agreement, MRA)」である。

MRAとMOUの進展状況

相互承認とは、異なるEPDプログラム間で、互いのPCRや検証プロセスを公式に認め合う合意である 。IESは、スペインのAENORやドイツのIBU、ノルウェーのEPD Globalなど、多くの欧州プログラムとMRAを締結しており、ロゴの二重表示や相互のライブラリへの掲載を可能にしている 。

日本(SuMPO)とIESの関係については、現時点では「覚書(Memorandum of Understanding, MOU)」の締結段階にある 。MOUは将来的な提携に向けた協力の意思を示すものであり、直ちに完全な相互承認(検証の省略等)を保証するものではないが、国際的な整合性を高めるための重要なステップとして位置づけられている 。

ECO Platformを通じた連携

SuMPOは2023年5月、欧州を中心とした国際的なEPDプログラムの連合組織である「ECO Platform」に加盟した 。ECO Platformは、各国のEPDプログラムを監査し、EN 15804規格等への適合を認定することで、データの比較可能性と品質を保証する組織である。

SuMPOがECO Platformの一員となったことで、同プログラムで発行される建設製品向けのEPDは、欧州の基準であるEN 15804+A2との整合性がより明確になった 。これにより、日本企業がSuMPO EPDを通じて算定した環境データが、欧州市場での調達や建築物評価において受け入れられる基盤が整いつつある 。

 

欧州の最新規制とデジタル製品パスポート(DPP)の影響

EPDの取得プロセスを検討する上で避けて通れないのが、欧州連合(EU)における「持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)」および「デジタル製品パスポート(DPP)」の導入である 。

DPPによる「情報の動態化」への要求

DPPは、製品、部品、材料のデジタルIDカードとして機能し、耐久性、修理可能性、リサイクル性、さらには環境フットプリントに関する詳細情報をQRコード等を通じて提供することを義務付ける 。

  • 規制の拘束力: 従来の「指令」から「規則」へと変更されたことで、EU全土で直接的な法的拘束力を持つようになった 。

  • 対象製品の拡大: 2026年からバッテリー製品への導入が義務化され、その後、繊維製品、電子機器、建材、家具などへ順次拡大される見込みである 。

  • EPDの役割: DPPに組み込まれる環境データは、実質的にEPDの算定結果と重なる部分が多く、EPDはDPP対応のための主要なデータソースとして期待されている 。

日本企業への影響と対策

DPPの導入により、単に静的なPDF文書としてのEPDを保持するだけでは不十分となる可能性がある。今後は、サプライチェーン全体で動的にデータを更新し、デジタルネットワーク上で流通させる仕組みが必須となる 。

 

システム認証制度:大規模発行に向けた戦略的アプローチ

個別の製品ごとに検証を受けるプロセスは、製品数が多い企業にとっては大きな負担となる。これを解消するためにSuMPOが提供しているのが「システム認証(包括算定制度)」である 。

システム認証の仕組みとメリット

システム認証とは、企業内部でPCRに基づくLCA算定および検証を行うための「体制」そのものを認証する制度である 。

  1. 内部ルールの策定: 企業は「Internal-PCR」と呼ばれる独自の算定ルールを策定する 。

  2. 体制審査: SuMPOまたは認定認証機関が、企業のデータ管理体制や検証能力を審査する 。

  3. 自主的発行: 認証を受けた企業は、個別の製品ごとに外部の検証を受けることなく、自社の責任においてEPDを発行・登録できるようになる 。

この制度の導入費用は高額であるが、年間数百から数千の製品を展開する企業にとっては、検証期間の短縮と長期的なコスト削減のメリットが極めて大きい。

 

結論:日本企業に求められるEPD戦略の多層化

国内EPDと国際EPDの取得フローは、基本的なLCAの手法を共有しつつも、地域的なデータベースの特性やデジタル化の進展度において独自の発展を遂げていることが明らかになった。

日本企業は、以下の3つの観点から多層的なEPD戦略を構築すべきである。

第一に、市場特性に応じたプログラムの選択である。日本国内の公共調達や国内顧客への対応が主眼であれば、IDEAデータベースを活用したSuMPO EPDが最も精度高く、かつコスト効率の良い選択肢となる。一方、欧州のプロジェクトやグローバルなサステナビリティ評価を目指すのであれば、IESによる国際登録が強力なプレゼンスを発揮する。

第二に、デジタル・グローバル対応の強化である。欧州のDPP規則は、環境データのデジタル化を不可逆的な流れにしている。EN 15804+A2に準拠した算定を早期に実施し、PDFという文書形式を超えて、データそのものを管理・流通させる能力を組織として培う必要がある。SuMPOのECO Platform加盟は、こうした国際整合性を担保するための重要な後ろ盾となる。

第三に、規模の経済を追求する算定体制の構築である。少数の製品から試行的にEPDを取得する段階を超え、主力製品群すべてに環境情報を付与するためには、システム認証の活用やAPI連携された算定ツールの導入が不可避である。これにより、環境負荷データの生成を「プロジェクト」から「定常業務(ビジネスプロセス)」へと昇華させることが可能となる。

EPDは、単なる環境主張の手段ではなく、デジタル化されたグローバル市場における「製品のパスポート」としての性格を強めている。国内および国際プログラムの取得フローを正しく理解し、自社の事業戦略と密接に紐付けることは、持続可能な経営を実現するための極めて重要な投資であると言える。

 

 
 
 

コメント


この投稿へのコメントは利用できなくなりました。詳細はサイト所有者にお問い合わせください。
bottom of page