農業と食品生産は、温室効果ガスの主要な排出源の一つである。特に、家畜生産や化学肥料の使用が、大量の温室効果ガスを排出している。近年、環境保護や食品の安全性に関する規制が強化され、また、消費者の間で環境に優しい製品を選ぶ意識が高まっていることから、温室効果ガス排出の削減と気候変動への対応を図るため、フードチェーンの脱炭素化が求められている。
環境負荷の低減を目指す上で、作れば作るほど環境が再生する再生型のフードチェーンや、循環型のフードチェーンの実現、限られた資源をムダなく活用すること等が求められる。農業生産現場や流通段階における脱炭素化技術を紹介する。
・水稲栽培における中干し期間の延長・間断灌漑
中⼲し期間を通常よりも延長することで土壌中により多くの酸素を供給するとメタン生成菌の活動が抑制され、メタン排出量が低減する。湛水と落水を繰り返す間断灌漑と組み合わせることでより効果的にメタン発生量の削減が可能である。
・バイオ炭の農地施
バイオ炭を農地に施用することで、難分解性の炭素を長期間地中に貯留することができる。
・良質堆肥の生産
家畜排せつ物を好気条件下で堆肥化(強制発酵)することで、嫌気条件下で発生するCH4の発生を抑えつつ、低水分で良質な堆肥を生産する。
・アミノ酸バランス改善飼料給与による温室効果ガス削減
アミノ酸バランス改善飼料の給餌により、家畜体内で利用されないアミノ酸を減らすことがで、N2Oの発生を抑制することが可能である。
・農業トリジェネレーション
施設園芸の温室に設置される発電設備にて発電した電気を施設内で利用するほか、発電で発生する熱を温室加温に利用、発電時に排出されるCO2を温室内に送気し、光合成による成長を促す。
・農業用機械の電動化
動力となるガソリンエンジンやディーゼルエンジンを電気モーターとバッテリー(2次電池)にコンバートした農業用機械。化石燃料を使用しない電力をエネルギー源とすることが可能。
・常温低湿乾燥システム
除湿乾燥の利用により、ガラスハウスあるいはビニールハウスの内部を外部よりも平衡含水率の低い環境にし、食品を乾燥させる。灯油を使用する火力乾燥とは異なり、乾燥時の化石燃料消費を抑制することが可能である。
・梱包材の削減・減容化(フレコンの複数回使用等)
フレキシブルコンテナは、米麦・大豆などの穀物や肥料等を保管・運送するために使用されている容器で、⼀般的にはフレコンバッグやフレコンと呼ばれている。フレコンを複数回使用すること、また、規格を全国統⼀化することにより、GHG発生量をワンウェイに比べ削減する効果が期待される。
・通い箱・通いプラコン・通い容器の使用
物流クレート標準化協議会等がクレートの標準化を行っている。製品ごとの通い容器は使い捨てではなく、耐久性があり繰り返し利用可能な容器で食品や日用品などを販売から洗浄、再充填を行い、効率的な再利用により、製造時・使用済容器の最終処分のGHG排出量を削減する。
・バイオマスプラスチック製容器包装
大気中のCO2がバイオマスとして固定化・貯留されることにより、石油資源で製造されるプラスチックよりもライフサイクルGHG排出量を低減する効果が期待される。
・モーダルシフト
トラック等の自動車で行われている貨物輸送を環境負荷の小さいと想定される鉄道や船舶の利用へと転換することで、輸送単位当たりのGHG削減が削減される。
・小型バイオガス発電施設
農畜産物の残渣や糞尿などの廃棄物をメタン発酵させ、生じたバイオマスガスを再利用しエネルギー化する。
※株式会社テックシンカーは、農業と食品生産の脱炭素化推進やデータ・情報利活用基盤の構築、消費者の行動変容を促す仕組み構築を支援しております。
出典:農林水産省、フードサプライチェーンにおける脱炭素化技術・可視化(見える化)に関する紹介資料(令和4年6月)
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